QOLを高めるためのプロダクトレビュー&リサーチブログ。「忙しい」から解放されるために投資するべきアイテムをハード/ソフト関わらずご紹介。

「Northvolt」元テスラの幹部が立ち上げたバッテリーメーカー

テクノロジー

2023年06月17日

article-thumbnail

CONTENTS

  • 元Teslaの幹部が創業したバッテリーメーカー
  • 環境に配慮したバッテリー開発と生産設備で注目を集める
  • 新興企業が故に、既存の競合メーカーとの競争力では劣る部分もある
  • 今後の動向

世界的に今後より一層重要度が高まるとされているバッテリー分野について、とあるスウェーデンのバッテリーメーカーが注目を集めています。

環境に優しいバッテリーの開発と生産に取り組んでいるスタートアップ企業「Northvolt(ノースボルト)」です。2017年に元Teslaの幹部だったピーター・カールソン氏とパオロ・セルッティ氏によって設立された同社は、欧州のEV産業の期待を一身に背負っている側面を持ちます。

今回はそんなNorthvoltについて詳しく解説していきます

元Teslaの幹部が創業したバッテリーメーカー

共同創業者の1人、ピーター・カールソン氏は、Teslaのサプライチェーン担当副社長として働いていた経験を持ちます。彼はEVの需要が急増する中で、欧州におけるバッテリー生産能力の不足に気づき、自身の手で欧州に最先端のバッテリー工場を建設することによって、この問題に対処しようと考えました。このアイデアを実現させるため、2016年にTeslaを退職し、同年末にNorthvoltを設立することになります。

もう1人の共同創業者であるパオロ・セルッティ氏は、スウェーデンにあるエネルギー会社Vattenfallの戦略担当ディレクターとして働いていた経験を持ちます。彼は再生可能エネルギーの普及に伴って、電力システムにおける電池の重要性が高まると予測しました。彼は、北欧の豊富な水力や風力などのクリーンエネルギーを活用して、低炭素で競争力のある電池を製造することで、エネルギー転換に貢献したいと考え、2017年初めにVattenfallを退職し、Northvoltの共同創業者となりました。

こうした経緯から、ピーター・カールソン氏とパオロ・セルッティ氏の掲げるNorthvoltのミッションは「世界で最も環境に優しいバッテリーを作ること」です。原材料の調達から製品のリサイクルに至るまで、つまりバッテリーのライフサイクル全体における環境への影響を最小限に抑えることを目指しています。

環境に配慮したバッテリー開発と生産設備で注目を集める

上述の通り、Northvoltのミッションは「世界でもっとも環境にやさしいバッテリーを作る」ことです。これを実現するため、製造に使う電力はスウェーデンの安価な水力発電や風力発電がメインで、化石燃料由来の電力でつくられたバッテリーよりにCO2排出量が80%少ない値であると発表しています。

また、2030年までに原材料の50%をリサイクル材料にすることを目指し、ノルウェーのアルミニウム大手HydroとEVバッテリーのリサイクルのための合弁会社「Hydro Volt」を設立しました。

さらにNorthvoltは、欧州の自動車メーカーやエネルギー企業と多くの契約を締結しています。例えばフォルクスワーゲンやBMWとは、それぞれ累計で約100億ユーロ(約1兆3000億円)相当の電池を供給する契約を結んでいます。また、VattenfallやE.ONなどのエネルギー企業とは、再生可能エネルギーの安定供給や需要管理に役立つ大規模なバッテリー貯蔵システムの開発や運用に協力しています。

このようにNorthvoltは、コストだけでなく、環境負荷という価値基準で優位性を築こうとしています。

新興企業が故に、既存の競合メーカーとの競争力では劣る部分もある

Northvoltにも弱みがあります。その1つは、市場での競争力です。同社は2016年に設立された比較的新しい企業であり、アジアや米国の大手バッテリーメーカーと比べると、技術やコスト面で劣っている可能性があります。また、欧州市場では、LGやSKなどの韓国勢が強い存在感を示しており、同社がシェアを奪うのは容易ではありません。さらに、欧州内でもVolkswagenやBMWなどの自動車メーカーが自社でバッテリー製造に乗り出す動きがあり、Northvoltの顧客基盤が揺らぐ恐れもあります。

もう1つの弱みは、原材料の調達です。Northvoltはリサイクルによって原材料の需要を減らすことを目指していますが、それでも新規に必要な材料はあります。特にニッケルやコバルトなどの金属は供給が不安定で価格が高騰する傾向にあります。これらの材料は主にアフリカやインドネシアなどの国から輸入されており、政治的なリスクや環境問題が懸念されます。Northvoltはエシカルな調達を行うとしていますが、それでもコストや品質に影響が出る可能性があります。

以上のように、Northvoltは環境に配慮したバッテリー製造とリサイクルに注力していますが、市場での競争力や原材料の調達には課題があります。同社はこれらの弱みを克服し、欧州のバッテリー分野のリーダーとなることができるでしょうか。

Northvoltは、これらの競合他社に対抗するために、環境に優しい製造プロセスや革新的な技術を進めています。具体的にどういう取り組みがされているか、以下の項で確認してみましょう。

今後の動向

Northvoltの取り組みは非常に活発化しています。各地域で工場建設を進め、関連するプログラムを多く発表しています。本記事ではその主な取り組みをご紹介します。

バッテリーのリサイクルプロセス「Revolt」を開始

Northvoltは2021年11月12日、使用済みのリチウムイオンバッテリーを分解して不純物を除去し、再びバッテリーに利用できる材料にするリサイクルプロセス「Revolt」を開始したと発表しました。このプロセスでは、ロボットを使ってバッテリーを破砕し、水溶液ベースの精錬(湿式精錬)で金属の約95%を回収します。回収した金属は、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンなどは同社の電池工場に再供給し、銅やアルミニウム、樹脂類は他の用途にも活用します。

同社はまず、ストックホルムから西北西に約100km離れたベステロスにある研究開発拠点で小規模なリサイクル処理と、回収した材料を用いたバッテリーの製造を進めています。そして2022年第1四半期には、ストックホルムから北に約600km離れたスケレフチに本格的なリサイクル工場「Revolt Ett」の建設を始めており、2023年中には竣工・稼働予定です。(当初のリサイクル規模は年産4GWhですが、最大で年間12万5000トン、バッテリーにして30GWh分の処理能力があるとされています。)

再生可能エネルギー100%でバッテリーを製造

スウェーデンのスケレフチに大型バッテリー工場「Northvolt Ett」の建設を進めており、当面の生産能力は年産60GWhです。この工場では、自動車や産業用途向けの高性能な電池を製造します。同社はすでに、フォルクスワーゲンやBMW、スカニアなど欧州の自動車メーカーとの契約を獲得しており、今後も需要の拡大が見込まれます。

さらに、同社はドイツのザルツギッターにもバッテリー工場「Northvolt Zwei」を建設する計画で、2024年に稼働予定です。この工場では、フォルクスワーゲンと共同で年産40GWhのバッテリーを製造する予定です。また、ポーランドのグダニスクにもバッテリーモジュール組立工場を建設することを発表しており、欧州市場でのシェア拡大を狙っています。

航空機用バッテリーの開発プログラムも発表

自動車のみならず、他の応用分野にも積極的に取り組んでいます。Northvoltは2021年4月25日、航空機用バッテリーの開発プログラム「Northvolt Fly」を発表しました。このプログラムでは、航空機メーカーや航空会社などと協力して、高性能で安全な航空機用バッテリーシステムを開発することを目指しています。同社は航空機用バッテリーの市場規模が2030年までに100億ドルに達すると見込んでおり、航空交通のイノベーションにも取り組んでいます。


以上から、Northvoltは再生可能エネルギーを100%利用したバッテリー製造とリサイクルを軸にしたビジネスを展開しています。北欧発のグリーンなバッテリーメーカーとして、今後も引き続き注目されていくことが予想されます。

EVグリーンテックSDGs企業紹介自動車AD