「電気を声でつけたい」「外出先からエアコンを操作したい」——そんな“未来の家”がすでに現実になりつつあります。
しかし実際にスマート家電を導入してみると、「アプリがバラバラ」「メーカーが違うと連携できない」など、意外と不便さを感じたことはありませんか?
今回は、その課題を一気に解決できる次世代スマートホーム規格「Matter(マター)」を紹介します。この規格に対応している製品を揃えれば、本当の意味でのスマートホーム化が実現できるので、しっかりとおさえておきましょう。
2022年10月4日にバージョン1.0がリリースされた、スマートホーム化のための最新標準規格です。日常生活の中で聞くことは滅多にない単語だと思いますが、スマートホーム界隈では世界中が注目しているものです。詳細は後述しますが、ここでは以下の2つを理解できればOKです。
みなさんは「JIS規格」や「ISO規格」という言葉をご存知でしょうか。すべての工業製品は寸法や形状、材質等の標準がこの規格によって決まっており、JIS規格は日本の法律に則った標準で、ISO規格は世界の標準規格として各企業に運用されています。これは単純に、ルールを設けず各企業に任せると、生産が無秩序化して結果的に生産効率が落ちてしまうことを防ぐためです。
例えばですが、シャーペンの芯は全メーカーが0.3mm、0.5mm、0.7mm、0.9mmの四種類の太さしかなく、2BやHBのような硬度は10種類しかありません。これはJIS規格でもISO規格でも定められているためです。もしもこの定めがなければ、世界中で様々な太さや硬さの芯が製作され、結果として対応可能なシャーペン本体の種類も増えてしまうため、互換性や生産性が下がってしまいます。
Matterとはこの規格の概念と同じであり、接続規格を全メーカーで共通化することを目的にしています。
リモコンを思い浮かべてみてください。リモコンは基本的に、同一メーカーが作った機器とセットであるため、基本的には単体操作しかできません。これは、接続規格が異なるために発生していることです。テレビ、エアコン、オーディオプレーヤー等にそれぞれリモコンが付属しており、使い分けながら操作を行うことがあります。
もしも、これら複数のリモコンがスマホアプリ上で全て操作可能だとしたら、日常生活のQOLが高まると思いませんか?Matterはこのような状況を解決することを主目的としています。
Matterは「スマート家電をつなぐための共通ルール」と紹介しましたが、まだ難しく聞こえるかもしれないので、4つの特徴に分けて紹介します。一言で表現すると、「かんたんに始められて、どのメーカーでも一緒に動いて、安定して使えて、安全性も高い」仕組みです。
新しいスマート家電を使い始める時、面倒な初期設定が必要なことが多いですよね。Matter対応製品なら、ほとんどがQRコードをスマホで読み取るだけで準備が完了します。
Wi-Fiの長いパスワードを入力したり、複雑な操作をしたりする必要はありません。ITが苦手な人でも、電球をつけるように気軽に始められます。
従来のスマート家電は「A社のアプリで電気をつけて、B社のアプリでエアコンを操作する」ように、バラバラで不便でした。全然スマートじゃないですよね。Matterなら、メーカーが違ってもひとつのアプリからまとめて操作可能です。
たとえば「寝る前に照明を消して、エアコンを弱めて、カーテンを閉じる」といった動作を、一度にまとめて指示できるようになります。
多くのスマート家電はインターネットを経由して動いているため、「Wi-Fiが落ちたら使えない」「反応が遅い」といった不満がありました。Matterは家の中で直接通信できる仕組みを持っているため、接続が安定しやすく、反応がスムーズです。万が一ネットが止まっても、照明をつける・エアコンを動かすなどの基本機能はそのまま使えるので安心です。
スマート家電で気になるのが「外からハッキングされないのか?」という不安です。Matter製品は、それぞれに専用のカギ(デジタル証明書)を持っていて、他の機器と通信するときも情報は自動で暗号化されます。つまり、第三者に盗み見られるリスクが大幅に減るということです。この鍵は定期的にアップデートも行われるので、長く安全に使えます。
ここまでの内容をまとめると、Matterは「スマート家電の共通言語」です。これにより、異なるメーカー同士の家電が“同じチーム”として動けるようになります。その仕組みを支えているのが、次に紹介する「3つの機能」です。
Matter対応製品がメーカーや規格の違いを気にせず操作できるのには、以下3つの機能を搭載しているためです。
機能 | 役割 | 具体例 |
---|---|---|
コントローラー | スマートホーム全体を操作・管理する「司令塔」 | iPhoneの「ホーム」アプリ、Amazon Echo、Google Nest Hub など |
ブリッジ | 異なる規格のスマート家電をMatterにつなぐ「橋渡し役」 | PhilipsのHue電球、Aqara Hubのセンサー など |
Threadボーダールーター | 省電力・安定通信のネットワークを、家のWi-Fiや他の機器とつなぐ「出入り口」 | Google Nest Hub Max、Apple HomePod mini |
もう少し具体的な話をすると以下のような感じです。
コントローラー:家のリモコン係
イメージはテレビのリモコンのような存在です。リモコンがないとテレビは操作できませんよね。スマートホームも同じで、コントローラーがあるから電気やエアコンなどの機器を一括して操作できます。
ブリッジ:通訳係
イメージは一つの言葉しか話せない外国人同士を通訳する存在です。多くのスマート家電は、これまで「Zigbee(ジグビー)」や「Z-Wave(ズィーウェーブ)」という別の通信規格で動いてきました。
ところが、これらはそのままではMatterと直接やりとりできません。そこでブリッジがZigbeeやZ-Waveの信号をMatterに翻訳してくれることで、古い機器も新しいMatter対応製品と一緒に使えるようになります。
Threadボーダールーター:道の入口
イメージは特定のエリアに構える「門」のような存在です。門があることで、エリアの中(Thread機器同士)と外(Wi-Fiなど)をスムーズにつなげられます。
これまでのスマート家電は「同じメーカーのアプリでないと使えない」ということが多く、たとえば照明はA社アプリ、エアコンはB社アプリと、いちいち切り替える必要がありました。
しかし、Matter対応製品ならメーカーが違っても同じアプリでまとめて操作できます。これによって「どのアプリで動かせるか」ということを考えなくてよくなるため、自分の好みを優先することが可能になります。
これまでのスマート家電は「アカウント登録」や「Wi-Fi設定」など手間が多く、苦手な人にとっては面倒でした。Matter対応なら、QRコードをスマホで読み取るだけで初期設定が完了するので、たとえば新しいスマート電球を買ったときでも、スマホをかざすだけで即使えるようになります。
従来のスマート家電はクラウド(インターネット上のサーバー)を経由して動作していました。そのため「Wi-Fiが止まったら使えない」「反応がワンテンポ遅い」などの不便さがありました。
Matter対応製品は家の中で直接通信できるので、ネットが止まっても電気を消す・エアコンをつけるといった基本操作は問題なく使えます。さらにクラウドを介さないので、反応が速くなる上に、使用データが外部に送られにくく、プライバシー面も安心です。
これまでは「Apple製品を使っているならHomeKit対応製品しか選べない」といった制約がありました。しかしMatter対応なら、Apple・Google・Amazonなどどのプラットフォームでも自由に使えるようになります。
たとえば「照明は北欧デザインのメーカー、スピーカーは低価格のメーカー」といった組み合わせも可能で、自分のライフスタイルや予算に合わせて製品を選べるのが大きな魅力です。
Matterに対応したスマート家電は少しずつ増えてきていますが、まだ「全部が対応している」という状況ではありません。そのため、ものによっては引き続き別のアプリ等での操作が残ってしまうケースがあります。
Matter対応製品は便利ですが、すべての機能が使えるわけではありません。
例えばエアコンの場合、電源のオン・オフはできても、風向きや風量の細かい調整ができないことがありました。ただし最新のバージョンでは改善されつつあり、今後のアップデートで徐々に使いやすくなる見込みです。
Matterに対応するためには「認証」を受ける必要があり、その分コストがかかります。
そのため、同じような機能を持つ製品でも、Matter対応モデルは非対応モデルより価格がやや高いことがあります。
Matter規格はバージョンアップするごとに対応可能なデバイスの種類を増やしてきました。以下の表で各バージョンごとに対応可能となったデバイスカテゴリーをまとめているので参考にしてみてください。
バージョン | 新たに追加された主なデバイスカテゴリー |
---|---|
Matter 1.0 | 照明、電動カーテンブラインド、ファンコントロール、TV、エアコン、ブリッジ |
Matter 1.1 | 該当なし |
Matter 1.2 | 冷蔵庫、家庭用エアコン、食器洗い機、洗濯機、ロボット掃除機、煙報器、空気清浄機、扇風機 |
Matter 1.3 | EVチャージャー、電子レンジ、洗濯乾燥機、オーブン、レンジフード、コンロ |
Matter 1.4 | 電気温水器、太陽光、蓄電池、ヒートポンプ、ネットワークインフラストラクチャーマネージャー、Threadボーダールーター |
一般家庭用と産業用が混在しているので、私たちの身近なものでMatter規格対応の製品を一部ですが紹介します。
価格(2025年10月時点) | ¥12,000 |
---|---|
カラーパターン | 1600万色以上 |
サイズ | 146mm × 140mm × 209 mm |
重さ | 380g |
消費電力 | 6.5W |
起動時 | 瞬時に100%の光出力 |
専用アプリ | ○ |
Philipsが手がけるスマート電球で、手吹きガラスを採用したシンプルな見た目が特徴です。通常の電球色や昼光色、昼白色は勿論、「魅せる照明」として1600万色以上のカラーパターンがあるため、どんなシチュエーションも演出可能な優れものです。
専用アプリやスマートスピーカー連携による音声操作は勿論、別売りの機器を導入するとタイマー操作や外出先での遠隔操作もできるようになります。
価格(2025年10月時点) | ¥9,980 |
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カラーバリエーション | ホワイト |
サイズ | 80mm × 70mm × 23 mm |
重さ | 63g |
物理ボタン・ダイヤル | ✕ |
赤外線家電対応 | ○ |
ストリーミング端末対応 | ✕ |
アプリ操作 | 最大8台 |
サードパーティー | Alexa / Google Assistant / Siri Shortcuts / IFTTT |
スマートホーム家電を多数展開しているSwitchbotから出ているスマートリモコンです。「hub」という名前の通り、Matter規格対応の複数家電操作をスマホアプリ一つに集約させ、温度や湿度、照度に合わせた時限操作もできる優れものです。
Hub 2は同じSwitchBot製品のみの接続しかできませんが、上位種であるSwitchBot Hub 3は他社のMatter規格製品も操作できるため、用途に応じた導入をすると良いです。
より詳しい情報を知りたい方は以下の記事をチェックしてみてください。
価格(2025年10月時点) | ¥11,980 |
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カラーバリエーション | グレーシャーホワイト/チャコール/トワイライトブルー |
サイズ | 144 mm × 144 mm × 133 mm |
重さ | 940g |
オーディオ | 3.0インチウーファー、0.8ツイーター x 2 |
サポートする音楽ストリーミング | Amazon Music、Apple Music、Spotify、AWA、TuneIn、うたパス |
Bluetooth接続 | ○ |
タップジェスチャー | ○ |
温度センサー | ○ |
スマートスピーカーでお馴染みのAmazon Echoシリーズのスタンダードモデルです。スピーカー本来の用途である音楽再生は勿論、スマートホーム家電を操作する上では必要不可欠である「音声操作」のハブになるアイテムです。
Matter規格対応デバイスの専用アプリにはほぼ間違いなくスマートスピーカー連携の機能が備わっています。ここで対象家電との接続を完了すると、アプリを開かずに話しかけるだけで指定の動作ができるため、「ながら操作」が実現することになります。
GoogleもAppleもスマートスピーカーを出していますが、バリエーションの多さではAmazon Echoが群を抜いているため、最初の1台を見つけやすいアイテムです。以下の記事ではAmazon Echoの比較をしていますので、チェックしてみてください。
今回はMatterというスマートホームの新たな企画に関する紹介をしました。まとめると以下の二点になるので、これからスマートホーム家電を買う際には意識してみてください。
今までのスマート家電はメーカーごとにバラバラで、「このアプリは照明用」「あのアプリはエアコン用」と不便でした。Matterはそれを解決するための共通ルール(共通のことば)で、対応製品ならメーカーが違っても同じアプリで操作できます。設定もQRコードを読み取るだけでかんたん、通信も安定していてセキュリティも安心です。
Matter対応製品はまだ数が限られていて、価格も少し高めですが、世界的に広がっている最新規格です。今後は対応家電が増えていく見込みなので、これからスマート家電を買うときは「Matter対応かどうか」を確認して選ぶと、長く快適に使えます。
次世代スマートホーム規格「Matter(マター)」を紹介します。この規格に対応している製品を揃えれば、本当の意味でのスマートホーム化が実現できるので、しっかりとおさえておきましょう。